日産自動車が6月、軽自動車としては同社初の電気自動車(EV)「サクラ」を発売した。電池容量を主力EV「リーフ」の低価格車種の半分にするなどコストを低減。補助金を使えば178万円から買える。軽自動車は国内新車販売の約4割を占めるがEV対応は遅れ気味だ。日産グローバル本社(横浜市)で開かれた試乗会で記者が乗り心地を確かめた。
「スーッ」。走り始めるとエンジンがないEVならではの静かさを感じる。モーター部品の配置も工夫することで、発進時の室内音の大きさはガソリン軽「デイズ」よりも抑えた。長い直線の道路に入ったところでアクセルを強めに踏んで時速を50キロメートル程度まで上げたが、騒音はほとんど聞こえない。道路のアスファルトとタイヤが擦れる音だけが車内に響いていた。
発進時の加速もEVならではの特徴だ。アクセルの踏み込みは半分程度でガソリン車の軽と同じくらいの加速力を感じた。トルク(駆動力)の数値が大きいほど加速しやすくなるが、サクラはデイズの2倍の195ニュートンメートルに高めたという。車線変更時の加速もなめらかだ。
試乗会ではJR桜木町駅近くの勾配のきつい野毛坂を通った。坂の途中で赤信号にひっかかり停止したが、坂道発進もスムーズだった。急勾配の坂は通常の軽であればアクセルを踏んで全開にするところだが、こちらも半分ほどの踏み込みで上ることができた。
「サクラは男性4人が乗っても坂道でスムーズに前進する。貨物車として荷物を多く積む需要も捉えている」(近藤啓子マーケティングマネージャー)
下り坂ではEVなどの電動車に搭載される「回生ブレーキ」が役立った。同ブレーキはモーターの抵抗力を使って減速し発電もする仕組みで電車などにも使われている。サクラ搭載の回生ブレーキは、「エンジンブレーキ」に比べて3倍以上の力があるという。
アクセルペダルの踏み込みの力加減だけでスピード調整ができて頻繁な踏み替えが不要で足への負担が少ない。試乗でも、アクセルを緩めるだけでブレーキをかけているかのようにゆっくりと坂道を下ることができた。
サクラは手が届きやすい価格に設定されているが、見た目にはこだわっている。後方の「テールランプ」にはそれぞれ高価格帯の車で使われる部品を採用し「軽でも高級感と先進性を演出した」(日産)。
乗り込んで最初に目に入るのは運転席回りだ。計器類や地図などを表示するディスプレーが並んでおり未来の乗り物のように感じさせるスッキリしたデザインだ。一部に木目調の素材を取り入れるなど車内でも高級感を持たせている。
電池は床下に配置。床下の高さは一定ではなく、高さにあわせて薄いラミネート型の電池を敷き詰めることで、車内空間を広くとることができた。
課題もある。充電時間は家庭用電源を使う普通充電だと8時間、急速だと40分で、充電1回当たりの航続距離は180キロメートルに設定した。ただ、休日に半日程度のドライブをする場合でも軽自動車を使用する場合はある。その場合途中で充電が必要になる可能性は高いが、充電インフラはまだ十分ではなく不便を感じそうだ。
サクラの出足は好調だ。6月26日時点の受注台数は約1万7000台だった。2021年の国内EV販売は2万1139台だったことから考えると、需要は強い。週末の遠出用にガソリン車などを持ちながら、近くのスーパーでの買い物など日常的に利用する2台目としての購入例が多い。
購入層は中高年だけでなく軽主力の「デイズ」などと比べ20代の若年層に広がる。現時点で全体の半分程度が他のメーカーからの乗り換えだという。サクラは三菱自動車との共同開発車で車台は三菱自の「eKクロスEV」と共通にし、最低価格はeKクロスより約6万円安い。
国内新車で存在感を維持する軽市場は13年度に約226万台でピークとなったが、その後は少子高齢化による自動車市場全体の縮小や軽自動車税の増額などを背景に減少が続く。21年度は前年度比11.5%減の約155万台。ピーク時からは3割程度落ち込むなど低迷が続く。
軽EVには市場活性化の期待が高まる。25年までにホンダ、スズキ、ダイハツ工業も発売する予定だ。メーカーによっては補助金込みで100万円台半ばでの発売を狙い、価格や機能の競争は激化しそうだ。
日産などは先行者の利点を生かせるか。EVには割高な車両価格や充電インフラの未整備など、まだ消費者が手を出しにくいイメージがある。軽EVのブランド訴求を進めて市場での存在感を早期に確立することが先行者利益を確保できるかどうかのカギになる。(白井咲貴、坂田耀)
からの記事と詳細 ( 日産新型軽EV「サクラ」、急勾配もアクセル半踏みで前進 - 日本経済新聞 )
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