急拡大する暗号資産(仮想通貨)の取引で、所得の申告漏れや無申告が相次いでいる。国税庁は5年前に取引の利益を「雑所得」として確定申告の対象とし、取り締まりを強化。SNS上では「暗号資産同士の交換は非課税」といった誤った情報も出回り、認識不足から巨額の追徴課税を求められるケースもある。16日からは2021年分の確定申告が始まり、国税庁は適切な納税の周知に力を入れる。(葉久裕也)
■利用急拡大
暗号資産は円やドルといった通貨と異なり、「仮想のお金」だ。交換業者が運営する取引所に登録して口座を開設、現金で購入すれば、保有できる。買い物や送金に使用でき、国内外で1万種類以上あるとされる。ビットコインやリップルなどがよく知られている。
日本暗号資産取引業協会(東京)によると、国内の暗号資産の取引総額は16年度は約3兆5000億円だったが、20年度は33倍の約118兆円に達した。国内の取引所の口座開設数は20年度末で約430万件で、利用者の約8割は20〜40歳代という。
課税ルールは定まっていなかったが、取引の活発化を受け、国税庁は17年に取引の利益は雑所得にあたるとの見解を示した。暗号資産から円への換金だけではなく、別の暗号資産への交換や、商品・サービスの購入も課税の対象とされた。1年間の取引の収支で一定以上の所得が生じた場合には納税する必要がある。
■SNSに「非課税」誤情報も
「暗号資産同士の交換は非課税」「海外取引は課税されない」……。SNS上ではこうした誤った情報が出回っている。
暗号資産は通貨と比べて乱高下が激しく、値上がりでのもうけを期待して、暗号資産同士を交換する取引形態が一般的だ。この場合、手元に現金がないため、課税の認識を持ちにくいとの事情があるが、国税庁は「暗号資産で別の暗号資産を購入したことになり、課税対象だ」と説明。現金での納税を求めている。
確定申告は個人が取引内容を基に行う必要がある。国内の取引所については18年から、利用者が年間の取引内容をまとめた報告書を入手できる制度が始まった。国税庁によると、海外取引も課税対象だが、海外には一定期間の経過で取引履歴が非公開となる取引所もあり、取引内容を個人で記録しておくよう呼びかける。
国税庁はホームページで報告書などから申告額を自動で出す表計算を公開するなどしており、担当者は「不明点があれば、税務署などに相談してほしい」としている。
■取り締まり強化
国税庁は19年に全国の国税局に暗号資産などを専門とするプロジェクトチームを設置するなど、悪質な税逃れへの取り締まりを強化。20年の国税通則法改正で、国内の取引所から取引履歴に加え、顧客の氏名や住所の照会が可能となり、取引実態を追いやすくなった。
20年3月には金沢国税局が、取引で得た所得を隠し、約7700万円を脱税したとして石川県の会社役員(57)を所得税法違反容疑で告発。金沢地裁で懲役1年、執行猶予3年、罰金1800万円の有罪判決が言い渡された。
国税OBで暗号資産に詳しい坂本新税理士(東京)によると、最近はコロナ下で在宅時間が増え、投資目的で気軽に暗号資産の取引を始める人が目立ち、確定申告に不慣れな会社員からの相談が増加している。坂本税理士は「納税の時に価値が大幅に減っていて、現金が用意できず納税に困ることも少なくない。暗号資産取引の特徴を理解しておく必要がある」と話す。
◆雑所得=給与所得や不動産所得、配当所得などにあたらない所得。給与所得者が副業として行った講演料や原稿料、ネットオークションの利益などが該当する。20万円を超える場合は確定申告が必要で、所得が高いほど税率は高くなり、最大55%が課税される。
■「正しい知識持っていれば…」
2億円以上の追徴課税を受けた東京都内の40歳代の男性会社員が取材に応じた。男性は自宅を手放さないといけない可能性もあるといい、「正しい知識を持っておかないといけなかった」と悔やんだ。
男性は2016年、ビットコインを購入し、他の暗号資産にも取引を広げた。17年末には1か月弱で保有するリップルの価値が約10倍に高騰し、資産価値は4億円以上に膨れあがった。一部は現金にしたが、大半は別の暗号資産に交換した。
交換分の申告が必要とは思わず、現金化した分を除いて確定申告しなかったが、昨年9月、税務署から申告漏れの指摘を受け、過少申告加算税を含む追徴税額は2億円以上になった。
男性は妻と幼い子どもの3人家族で、会社員としての年収は900万円程度。同12月に修正申告したが、保有する暗号資産の価値が大きく落ちていたため、現金化しても全く足りず、税務署に納税の猶予を申請中だ。男性は「働いて納められる金額ではなく、家族に申し訳ない」と話した。
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